思考の墓場 サルガッソー

思考は宇宙気流に乗り、移動性ブラックホール「サルガッソー」へと流れ込む。

宗教に見る性の変遷 ~第4回 現代に続く性風俗の系譜①~

 「次回で最終回」だと言ったな?スマンありゃ嘘だ。

 さて、「宗教に見る性の変遷」も第4回となりましたが、今回から宗教の話ではなく性風俗関連の話題にシフトします。「おいおいタイトル詐欺じゃないか!」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、最後までお付き合い頂けたらと思います。

    宗教に見る性の変遷 ~第1回 古代蛇信仰と性~
    宗教に見る性の変遷 ~第2回 古代美術と性①~
    宗教に見る性の変遷 ~第3回 古代美術と性②~

※一部エロ注意です。


性風俗の話をする理由

A. 文化の多様化が原因です。仏教の流入からしばらくの間、美術と信仰は切っても切れない関係にありました。しかし、時流とともに美術表現の手法や性の捉え方、考え方が変化し、性の宗教的意味合いは徐々に薄れ、より生活に密着したものとなりました。したがって、現代に続く「性の系譜」を見るには、宗教美術を離れる必要があります。タイトル詐欺乙。


エロ本の歴史 ~娯楽から夜のお供まで~

「おそくづ」

 信仰という形ではなく、より人々の生活に密接に関わった性的な美術品として「おそくづ」がある。この言葉は701 (大宝元) 年に制定された『大宝律令』の『医疾令』の中で「偃側等図」*1と表記され、「おそくづ」と仮名書きされて藤原時代の文学に登場した。

 『医疾令』とは漢字から推測されるように、当時の医薬全般に関わるものであったことから、この「おそくづ」はもともと医療用語であった。平安時代までの文献を調べてみると「おそくづ」の漢字表記は「偃図」と「偃図」のが2通りあり、前者は性の医学書を、後者は一般の枕絵を、それぞれ表すものだった。12世紀ごろには枕絵は偃息図としてかなり広まっていたらしく、これにまつわる逸話も多く遺されている。

 偃息図の特徴として「性器の過大描写」が見られ、この画法は平安時代から始まっている。日本の美術家は対象を象徴的に表現する技術を持っており、画面の中心となるものを拡大描写する一種のシュールリアリズムを重んじていたと考えることができる*2。また偃息図が医学書である偃側図から派生したことも、性器誇張の画法に影響を与えた可能性がある。『大宝律令』の登場から200年余りが経過したこの時代において、偃息図は大和絵の技法を取り入れ、屏風や絵巻物に公然と描かれていた。このことから、当時の人々にとって偃息図の鑑賞は決して不道徳なものではなく、むしろ激動の時代に疲れた心を癒す時間だったのかもしれない*3。そうであるとしたら、性器の誇張表現はあからさまな性の強調というよりは、見る者を楽しませるための技法であったのだろう。この表現技法は浮世絵時代にまで続くものとなる。


「浮世絵」

 浮世絵は中国風俗画の流入と狩野派の漢画、そして大和絵の技術の3つの要素が合わさって、時代の風俗を写実するものとして生まれた。誕生初期の浮世絵には性教育指導書的な内容のものも含まれており、多くの需要があったことを物語っている。絵巻物の偃息図に代わり、結婚初夜の教科書として新婚夫婦にこのような浮世絵を送ることは明治初期まではごく一般的なことだったらしい*4。この種の浮世絵を製本した枕本は性の知識の図解入り啓蒙書として扱われ、人生の書としての要求があったという。社会的需要の増加は木版を利用した浮世絵の大量生産を要求*5し、また初期の版画師であった菱川師宣は、この枕絵に堂々と署名を行っている。浮世絵技術は元禄文化期に急速な発展を遂げ、墨一色の墨摺り版画から華麗な色彩版画である錦絵が主流となった。この頃になると枕絵は浮世絵の中の大きなジャンルのひとつという地位を確立していたらしい。菱川師宣をはじめ、喜多川歌麿葛飾北斎、丸山応挙、渡辺崋山などの高名な浮世絵師・画家たちが、こぞってこのような絵を描いていた。
f:id:Oppai__perorist:20130727001026j:plain
作:葛飾北斎

詳しくは下記のリンクを参照して頂きたい。
浮世絵春画コレクション K-SOHYA POEM BLOG


今回はここまで。次回こそ最終回です。

*1:984(永観2)年の医学書『医心方』の中に、「偃 伏 開 張 之 勢 側 背 前 却 之 法」という言葉があり、ここから“偃”が“臥す”の意味を示すことがわかる。

*2:日本人が写実的表現をしなかったのは、現代の「写真を撮られると魂が抜かれる」理論の原型だと思われる。

*3:昔の人「二次元の方がヌける」→今の人「二次元の方がヌける」…まるで成長していない…

*4:こういうシャレのきいた文化が廃れたのは悲しく思う。現代でやったら顰蹙を買うだろうが…。

*5:技術発達の影には常に戦争とセックスへの憧れが存在する。